天龍源一郎引退試合完全放送観戦記(15・11・15日 両国国技館:放送・11・22日)PART2
天龍源一郎引退試合完全放送観戦記(15・11・15日 両国国技館:放送・11・22日)PART2
第8試合
実況のアナウンサーは「高山のロングバージョンのテーマ曲」って言っちゃったのはマイナス。
正確には高山のテーマ曲が前奏に使われたワルキューレの騎行(組長のテーマ)なんで、そのあたりは気をつけてほしかった。日テレといえばテーマ曲なんで、やはりそこは指摘しておきたい。
ちなみにみのる組も、村上のテーマ曲が前奏に使われた「風になれ」で、やはり特別バージョン。この大会ではテーマ曲に工夫が施されていた。この辺りの気配りは特別感が感じられて素晴らしいと思った。
一応U系で括られていたこの試合だが、高山とみのるはノアでやりあっている関係もあり、今更UWFでもないし、組長は変幻自在、となると、格闘色をまといつつ、危険な匂いを放つ選手は村上しかいない。一応猪木分派ながら、今や暴走王、小川や藤田和之がちんたらしている間に、プロレスラーとしての幅を広げている村上は、組長ねらいで場外乱闘。このあたりもよくわかっている。
しかし、いつもならテロリストモードにチェンジする組長が前半は受けに回る展開。かつての弟子であるみのるや、村上がどう出てくるのか、見定めている感じがした。
そんな組長と最近組む機会が多い高山は割と組長を信頼してか、必要以上にカットにはいらない。
だが、必要以上に追い込みすぎると組長は牙をむく。みのるが不用意に出したつま先をあっという間に決めたシーンは白眉!そのあとも、かつて組長の師である猪木にやられた「(アキレス腱固めの)角度が違う!」を、決められたみのるが使って挑発。これに角度を変えて決めに入る組長は涼しい顔!墓穴を掘った形になったみのるはたまらずロープエスケープ!
最近はあまり相手をたてはしないみのるが、まるで組長の見せ場を作ってみせているかのようで、組長がそれに気持ちよくのっかる感じがした。もちろん鉄柱に頭をぶつければ、一本足頭突きの呼び水である。
長い間プロレスをみていると、まさかこんな形で組長とみのるが絡む時代が来ようとは思いもしなかった。それだけでも感慨深いが、昭和プロレスをギリギリ知るみのるが、昭和プロレスとはかくあるべし、を両国に届けた試合になったように思う。
最後はお得意のカウンターのワキ固めで村上をズバリと切った組長。体力的な衰えを技術でカバーする昭和プロレスラーの矜持をみせてもらえた試合だった。
第9試合
長州力&⭕石井智宏(垂直落下式ブレーンバスター)齋藤彰俊&❌河上隆一
さて、昭和で欠かせないのはやはり長州である。パワーホールが鳴るや、満員の両国は大長州コール!本当に昭和が蘇ったような気がした。
放送席はどうも長州と河上の絡みという視点でこの試合を捉えたいように感じたが、私はむしろ天龍と長州の教えを第一線で体現している石井に注目していた。
新日のNEVER戦線の立役者である石井と、大日の若頭河上が絡むこのカードは密かに期待していた。ひざの怪我をおしてこの試合にかけた河上の意気込みが石井に届くか?ベテランながら、未だ最前線で闘う斎藤彰俊が、かつて永田とビッグマッチの第一試合をつとめて沸かせていた頃のような、ぶつかり合いを長州や石井にみせてくれるか?
果たして刺激的だったのは長州以外の3人の絡みであった。しかしいくら衰えたとはいえ、少ない技で効果的に見せ場を作り、佇まいだけで、リング内の空気を変えてしまう長州の地力はさすがとしかいいようがない。天龍同様一発の破壊力は往年時とは比べようもないけど、見るべきものはあった。
でもやはり今後みたい絡みとしては、どうしても長州以外の3人がシングルで絡んでいってほしい。NEVER戦線はまだまだ拡大できる余地はあるし、そこに河上や彰俊が加わるとなお刺激的な予感がしてくる。
河上が復帰したあと、他団体ならぜひ石井、彰俊とは何らかの形で接点を作る機会を与えてもらいたいと切に願う。
第10試合
諏訪魔&⭕岡林裕二(ゴーレムスプラッシュ)藤田和之&❌関本大介
諏訪魔と藤田和之がブーイングを受けた最大の理由がみていて分かった。藤田は観客に媚びずに己のスタイルを貫いたつもりで、実はそういう自分に酔っていただけ。そして諏訪魔は観客の大日本コールに媚びて、天龍引退試合を隠れ蓑にして、プロレスをしようとしただけ。
そもそも武藤全日に入団した諏訪魔となんちゃって闘魂伝承者の藤田が、さも双方の代表面して出てくるのがおかしいし、今更全日対新日の2団体時代の対立構図で、この試合を煽ったマスコミの頭も古すぎる。藤田も諏訪魔も、ある意味そのマスコミに踊らされて、さもファンが自分たちの試合を求めていると勘違いしたのであれば、それも自分が見えていない証拠。
そこへ行くと関本も岡林も自己主張は控えめながら、いつも通りの全力ファイトで、観客に媚びることなく、引退興行に花を添えるプロの仕事をしていた。そりゃ大日本コールがおきるはずである。
お客も天龍の引退興行で、大日本コールなどそぐわないことは百も承知していただろう。しかし、ああでもしないと収まりがつかないという気持ちもよくわかる。藤田もどうせやるならブーイングを貰って喜んでいるのではなく、会場で暴動を数々おこしても「どうってことねえよ」と言い放っていた、師・猪木くらいの居直りをするんならまだよかった(あれはあれで問題あったけど)
「自分は悪くない。悪いのは全部諏訪魔だ!おれは年末に来いっていったのに、あいつは逃げた!ブーイング飛ばすお客も分かってない!」という態度の藤田のどこに闘魂伝承者の資格を見出せよう?
諏訪魔も諏訪魔で、プロレスに日和ったかと思えば、藤田にブチ切れて試合を壊しかねない有様で、あれを王道プロレスというのは、頼むからやめてほしい。あれを「危険な匂い」とか「不穏試合」とかいう形で煽るのだけなら、マスコミは無責任な野次馬とどこが違うのか?
あの大「大日本」コールには、「俺たちはプロレスを見に来ているんだ!」というお客の気持ちとそれが伝わらないやるせなさが感じられて胸が痛かった。
関本と岡林を見るがいい。彼らは己の肉体のみで会話し、誰も口撃で責めてはいない。あのシンプルなぶつかり合いがプロレスの最大の魅力であり、それが伝えられない諏訪魔と藤田はプロ失格だとしかいいようがない。
数あるレジェンドの中で天龍がなぜ特別なのか?それは安定に甘んじようとしたらいくらでも出来たはずの人生にも関わらず、常に挑戦者であり続けたことである。
しかし、これはとんでもなく難しいのだ。そもそも革命とは現状を打破し、よりよい現実を手に入れるためにおこなうもの。だから安定をー度手にしたら、革命家は革命家ではなくなるのだ。
もし、終生革命家であり続けるのであれば、永遠に政権与党にはつけないのだ。だが、革命に費やす途方もないエネルギーを考えたら、見返りがほしいのも人として当然なのだ。
だが天龍は終生革命をやり続けた。もしSWSが成功していたとしても、天龍のことだから意地でもSの中で野党であり続けただろう。大相撲を志半ばで去らねばならなかったことが、原動力ではあったのは想像に難くないにしても、これは尋常ではないへそ曲がりである。
しかし、それが例えば「見に来てくれるお客さんのため」が1番に来て、「自分のやりたい」が2番目にきてしまうと、これもやっばり続かない。結局人間が飽きずに物事をやりきるには、「〜せねばならない」使命感以上の「〜したい」という強い願望がない限り無理な話なのだ。
それを例えて「腹いっぱいのプロレス」とはうまく表現したものである。自分がまず腹いっぱいになって、それを見てくれている人がついでに満腹になればいいという形だから、無理なく難しいことを続けてこられたのだ。
そうはいっても、常に「〜したい」が1番にあったわけではないだろう。人間のやることだから優先順位が入れ替わることだってあるし、やりたい形にできない自分にイラついたりしていただろう。
前代未聞と周囲はいうけど、やはりオカダ戦は天龍が望んだことなんだな、というのは見ていてわかったし、引退する期に及んでなお、満腹を求めている、その姿勢に驚嘆した。
プロレスに限らず、身体が動かなくなれば引かざるを得ない競技はたくさんある。だから満腹になれずに去る選手の方が多いはずだ。そういう人たちは大概引退にあたり、何とか理由をつけて自分を納得させようとする。でもそれは本意ではないから、引退後にぶれ出して結局現役復帰してくるのだ。
おそらく天龍が、現役復帰することはない。それはおろかプロレス界に関わることもないだろう。たまに表彰されて出てくるくらいかな?しかし、たぶん今もなお空腹であるはずの天龍は、次に満腹になれる何かを探し求めて生き続けるだろう。
それが終身革命家・天龍源一郎なのだ。
最近のインタビューやコメントをみると、オカダも「飢える快感」に味をしめた感がある。それは棚橋にも中邑にもないと私は思う。「〜したい」と願いリングに立つオカダは、見た目変わらなくても、内心は必ず変容を遂げているはずだ。
そして、天龍最期の相手の座を渇望をしながら満たされなかった鈴木みのるがこのまま黙っているはずがない。
この2人が飢えている内は、プロレスはまだまだ面白くなるだろう。そして2人に限らず、「〜せねばならない」という思いでプロレスのリングにあがるものには、天龍がどこからかキツイ檄を飛ばしてくるかもしれない。それをやらせないために、特にオカダにはもっともっと飢えた王者になってほしい。満たされたレインメーカーなんか誰も見たくないんだから。
番組の構成もよくできていたし、日テレのカメラでないにしろ、中継も満足度が高かった。反面、もう少し実況席はちゃんとした知識を持った人をそろえてほしかった。まあ、あのレベルではお世辞にも天龍引退という大看板を受け持つ器ではないことだけはわかった。プロレスの中継って意外と難しいんで、やっぱできる人をあててほしい。