これで200%元気がもらえる!心理学を使った超私的観戦術大公開!

cocoro.haradaが徒然なるままにプロレスとかアニメとかその他興味のあることをお話します。

映画鑑賞記・ちょうちん

ちょうちん
10年7月28日鑑賞。

図らずもヤクザ映画を2本続けて見て
しまったが、これは意図したモノではない。
当時早乙女愛さんの急逝を受けて見たのが
「新.仁義」だったのに対して、こちらは原作
を先に読んでいたがために、金子正次さんの
イメージを消し去るのに公開から今まで
かかってしまった。活字で既にイメージが
できあがっているモノを脳裏から払拭するのが
結構大変だったのだ。

三東会のヤクザ、村田千秋は新宿をシマに、
幸三、哲、誠の三人の若衆を率いて肩で風きって
歩いているている中堅ヤクザ。白のベンツを乗り
回しているものの、ローンでしか買えないし、
ちょっとしたカツアゲなどチンケなことばかり
をやっている。それも組の大幹部、町田や兄貴
筋の花木たちに小突かれながら。やっとのことで
或るポルノショップの立退きを成功させた夜、
千秋は町田に従いて行ったクラブ「峰」で
新入りホステスの新子に目を止めた。

翌日の夜、千秋はまた「蜂」に出かけたが、
新子は地上げ屋の井崎に誘われて別の店へ行く
ところだった。行きがけに彼女は自分の部屋の
鍵を千秋に放ってよこした。千秋が新子の部屋
へ行くと5歳になる息子、アキラが留守番
している。新子を待つ千秋に、哲からショバで
客ともめごとが起きたと報せが入った。

そして同居していた千秋の妹、涼子がひとり
暮らしを始めたいと出て行った。彼女は勤め先
のチーフ、弘とつきあっていたのだ。その夜、
新子から電話があり、千秋は初めて彼女を
抱いた。だが金がない。ベンツは支払いが
ストップしたため差し押さえ。自転車で町を
走り回る羽目になる千秋達。とりあえず支払い
の遅れている本橋という男から取立てた手形
をぶんどるが実はそれが不渡りだったのだ。

本橋を問いつめると息子から盗み取ったと
白状した。その息子、平山は、光陽銀行の
融資係だという。千秋たちは銀行へ乗り
込み、当座預金の口座を開かせ、3千万円
の大金を融資させた。当然返す気はさら
さらない。それで千秋は念願の事務所を
開いた。だが、井崎からクラブのママに
ならないかと持ちかけられた新子への
嫉妬から、千秋と新子の気持ちはすれ違い、
飲んだくれた新子は自暴自棄に幸三を部屋
に引き入れてしまった。翌朝、それを知った
千秋は幸三を痛めつけた。

やがて幸三は、千秋のライバル花木の配下に
ついてしまう。ある夜、千秋は本橋から襲われた。
平山が銀行を首になったというのだ。
実は花木が幸三を使って、千秋には黙って
一億円近くゆすったためだ。本橋ともみ合う
うちに千秋は吐血した。実は彼は末期のガン
だったのだ。やがて、三東会の破門状が
まわり、千秋は警察に捕えられた。

そして時が経ち出所した彼は新子の所に
迎え入れられる...が...。

1人のヤクザが、本気で愛した女とその連れ子
のため堅気になる決意をし、ささやかな幸せを
手にした矢先、癌に倒れて無念の死を遂げる
までを描いたお話。癌に冒され33歳の若さで急逝
した金子正次さんの脚本を、企画から4年を
費やして映画化したのが本作。まるで自分の死を
予感させるかのようなエンディングは竜二に通じる
モノがあるが、こちにはもっと悲惨かもしれない。
そして陣内孝典の銀幕デビュー作にして俳優と
しての出世作。実は陣内孝則が主演だから
見られなかったというのがあったのだ。

金子さんが演じる千秋を想像していただけに、
明らかに「明るいイメージの強い」陣内さんでは
「?」と思っていたからだ。だがそれは余計
な心配だった。

新宿にシマを持つ三東会の中堅ヤクザ、村田千秋
を演じる陣内孝則はこれでブルーリボン主演男優賞
も取っている。体型も当時はまだスマートで、
ダークスーツに身を包んだ立ち姿もビシッと美しく、
現在の姿からは想像出来ないくらいカッコイイ。

お馴染みのハイテンション&オーバーアクション
を封印し、全編グッと抑えたクールな演技でシブく
決めているが、全体的に陽のイメージは消せて
いない(自転車に乗る下りなどは特に)。

だが、それで金子さんとの差別化が図られて
いると思うのでこれはこれでいいと思う。 

主人公と愛し合う子連れのホステスを演じた
石田えりがとても良かった。母性と包容力に
溢れていて、男はみんなこういう女に惚れる
んだろうなぁと納得させる存在感のある演技が
すばらしい。デカいツラしながら実は結構な
小心者という三東会幹部役の原田芳雄、旦那
よりも肝が据わった姐さん加賀まりこも、
少ない出番ながら強烈な印象。脇を固める
俳優陣もみんな今ではいっぱしの看板に
なっている人が多い。 

音楽はあの『ストレンジャー・ザン・パラダイス
ダウン・バイ・ロー』に出演しているジョン・
ルーリーの弟、エヴァン・ルーリーが本作の音楽
を書き下ろし。ピアノ、生ギター、バイオリンに
バンドネオンの音色が絡み、そこはかとなく哀愁
漂うタンゴのリズムがヤクザ映画とは思えぬ切なさ
を表現している。タイトルの『ちょうちん』とは、
金子正次さんがイメージするヤクザの象徴と
いうことのようだが、劇中にある「昼間は汚い
シミだらけなんだけど、夜になって灯が入ると、
その時だけきれいに輝くじゃない」 という台詞
は金子さんの原作には入っていない。

これは監督が意図したのかそうでないのかは
わんないけど、原作の千秋はもっと格好悪くて
どうしようもない三下で、でも本当はとても悲しくて
自分の力もないことを知っているくせにいきがり
だけは一人前のどうしようもない男として
描かれている。そこが映画とはすこしちがう
ところかな。竜二の向上といい、この
「ちょうちん」でラストに千秋が漏らす
「親や社会に逆らって、重ねた悪事も
これまでか。一に窃盗、二にサギで、
三度のけんかでパクられて、検事判事のいる
前で一度は強情はったけどしょせんかなわぬ
現行犯。昼は厳しい看守の目、夜は冷たい
鉄格子、瞼とじればありありと、エプロン
姿のかわいい娘...」に代表される
「いいまわし」が千秋に「いわせてしまった」
そんな感じがする。ヤクザモノが代表作になって
しまった金子さんの作品だが、それは決して
格好いい物ではない。それは原作を読むとよくわかる。